AI機能を自社のシステムに組み込みたいと考えたとき、多くの担当者がこんな疑問を持ちます。「開発会社に依頼するとして、どの開発手法を選べばいいのか?」「ウォーターフォールで進めて、途中で要件が変わったらどうなるのか?」。
AI機能の開発プロジェクトは、通常のシステム開発と異なる難しさがあります。最初から要件を確定させることが難しく、実際に動かしてみてから仕様を見直すことが多いのです。そのため、従来のウォーターフォール開発では対応しきれないケースが頻発します。
こうした課題を解決するアプローチが、「AIアジャイル開発」です。AI機能の開発にアジャイル手法を取り入れることで、変化に柔軟に対応しながら開発を進められます。ただ、「アジャイルで依頼すれば大丈夫」と聞いても、発注者としては「具体的に何をどう依頼すればいいのか」「費用はいくらかかるのか」「どんな会社に頼めばいいのか」という疑問が残るはずです。
本記事では、AI機能の開発を外注しようとしている事業会社の担当者・プロジェクトマネージャーに向けて、AIアジャイル開発の進め方・契約形態・費用感・開発会社の選び方を実践的に解説します。アジャイルの基礎知識はすでにお持ちの方を想定していますが、AI開発特有のポイントに絞って説明しますので、初めて外注される方にも参考にしていただけます。
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AIアジャイル開発とは何か
「AIアジャイル開発」という言葉は、実際には2つの異なる意味で使われています。本記事の内容を正確に理解するために、まず定義を整理しておきましょう。
AI開発×アジャイル(本記事が扱う内容)
1つ目の意味は、「AIを搭載したシステムの開発プロジェクトにアジャイル手法を適用すること」です。つまり、機械学習モデルの開発・統合・改善を含むプロジェクトを、スプリント(反復開発サイクル)で進めるアプローチです。
本記事が扱うのはこちらの意味です。需要予測・自動仕分け・チャット対応などのAI機能を外注したい企業の担当者に向けて、「どう発注して、どう管理するか」をお伝えします。
AI活用×アジャイル(本記事では扱わない)
2つ目の意味は、「生成AIツール(GitHub Copilot・ChatGPT等)を使ってアジャイル開発の生産性を上げること」です。エンジニアがAIツールを活用して開発スピードを高めるアプローチで、AI機能を搭載したシステムを開発するわけではありません。
この2つを混同しないようにしてください。本記事でいう「AIアジャイル開発」は、前者(AI機能をアジャイルで開発・外注する)を指します。
アジャイル開発の基礎知識(スプリント・スクラム・バックログ等の用語)については、アジャイル開発とは?発注者として知っておくべき関わり方・契約・進め方ガイドをご参照ください。
AI開発プロジェクトにアジャイルが必要な3つの理由

「アジャイルのほうがよい」とは聞くものの、なぜAI開発にはアジャイルが向いているのでしょうか。ウォーターフォールの何が問題なのかを理解することが、上司への説明や開発会社とのコミュニケーションにも役立ちます。
理由①:AIモデルの性能は「作って確認」でしか分からない
通常のシステム開発では、仕様書を確定させてから開発し、成果物が仕様に合致しているかを確認します。しかし機械学習モデルは、「精度80%以上を担保する」という仕様を最初から確約することができません。
なぜなら、モデルの精度はデータの質・量・前処理・アルゴリズム選択・チューニングなど複合的な要因で決まり、実際に学習・評価してみるまで結果が分からないためです。「この条件で必ずこの精度が出る」という事前保証は、AI開発では原則としてできないのです。
ウォーターフォールで「精度○%以上」を仕様として請負契約を結んでしまうと、達成できない場合に開発会社と発注者のどちらに責任があるかが曖昧になり、プロジェクトが停滞します。アジャイルであれば、各スプリントでモデルの精度を確認しながら方向性を調整できます。
理由②:要件変更に柔軟に対応できる
AI機能を実際に動かしてみると、「想定していた出力形式では業務に使いにくい」「このデータを加えると精度が上がることが分かった」といった新たな発見が頻繁に起きます。開発初期に想定していた要件が、開発途中で変わることは珍しくありません。
ウォーターフォールでは、要件変更は追加費用と工程の見直しを伴います。変更のたびに見積もりが膨らみ、プロジェクトのコントロールが難しくなります。
アジャイルでは、スプリントごとに優先順位を見直せるため、途中で「この機能より先にあちらを作ろう」という判断が正式なプロセスの中でできます。発注者側も変更への対応に要するコストを予測しやすくなります。
理由③:早期の価値確認でリスクを最小化できる
AI機能のプロジェクトは、「そもそもAIで解決できる問題かどうか」が不明確なまま始まることがあります。大規模な投資をしてから「業務に合わなかった」と判明するリスクを避けるためにも、小さく始めて価値を確認することが重要です。
アジャイルでは、PoC(概念実証)→MVP(最小限のプロダクト)→本格開発という段階的なアプローチが取りやすく、各フェーズで「続けるかどうか」を判断できます。予算とリスクの管理が格段にしやすくなります。
【ウォーターフォールで失敗する典型パターン】
ウォーターフォールでAI開発を進めた場合、次のような失敗が多く見られます。
- 「要件定義フェーズ」で精度目標を確定させようとしたが、適切な目標値が分からず定義が曖昧なまま開発が始まる
- 開発完了後にモデルの精度を確認したら目標未達で、追加費用・工期延長の交渉になる
- モデルの出力が想定と違い、業務フローを変える必要が生じても、変更費用が膨らんで対応できない
これらはアジャイルを採用することで、多くのケースで回避できます。
AIアジャイル開発の進め方:スプリントで発注者は何をするか

アジャイル手法でAI機能を開発する場合、プロジェクト全体はどのように進むのでしょうか。発注者が各フェーズで何をすべきかを含めて解説します。
AIアジャイル開発のスプリント構成(PoC→MVP→本開発)
一般的なAIアジャイル開発プロジェクトは、以下の3つのフェーズで構成されます。
フェーズ1:PoC(概念実証)
「そのAI機能が業務課題を解決できるか」を小規模に検証するフェーズです。期間は2〜4週間が目安で、少量のサンプルデータを使って機械学習モデルの有効性を確認します。PoC の結果によって「本格開発に進む・手法を変える・撤退する」を判断します。
フェーズ2:MVP(最小限のプロダクト)
PoC で有効性が確認できたら、実際に業務で使える最小限の機能を開発します。2〜4スプリント(1スプリント=1〜2週間)で動くプロダクトを構築し、実際のデータと業務フローに合わせたフィードバックを収集します。
フェーズ3:本開発・改善
MVP での利用結果を踏まえ、精度向上・機能追加・UX改善を繰り返します。継続的なスプリントを通じて、業務に完全に適合したシステムへと成長させていきます。
発注者が参加すべきスプリントイベント
アジャイルでは、発注者(クライアント)がスプリントの節目に積極的に関与することが品質と方向性の一致につながります。特に重要なのが「スプリントレビュー」です。
スプリントレビュー(各スプリント終了時)
開発チームがそのスプリントで完成させた機能を発注者にデモします。発注者はここで「想定通りか」「優先順位を変えるべきか」をフィードバックします。このイベントへの参加が、プロジェクトのズレを早期に修正する最大のチャンスです。
- 参加頻度: 毎スプリント(1〜2週間に1回)
- 所要時間: 1〜2時間
- 発注者の役割: デモを見てフィードバックを与える。次スプリントの優先順位を確認する
週次定例・Slackでの非同期コミュニケーションも重要ですが、スプリントレビューへの参加は必須です。ここで適切なフィードバックを与えられるかどうかが、プロジェクト成否を左右します。
AI開発特有の確認ポイント(モデル精度・出力サンプルの評価)
スプリントレビューでAI機能を確認する際、一般的なシステム開発と異なる確認ポイントがあります。
- モデルの出力サンプルを実際のデータで確認する: 「精度70%」という数値だけでなく、具体的な入力データに対してどんな出力が返ってくるかを実データで確認してください。数値では気づかない問題(特定のカテゴリだけ精度が低い等)が発見できます
- 誤判定した事例を確認する: 正しく処理できなかったデータを確認することで、追加の学習データや前処理の改善方針が見えてきます
- 業務への適合性を評価する: 技術的な精度だけでなく、「この精度で業務に使えるか」という実務観点から評価してください
これらの確認はエンジニアでなくても行えます。業務を最もよく知る発注者側が積極的に関与することで、エンジニアが気づかない実務上の問題を早期に発見できます。
スクラム開発の詳細な進め方については、スクラム開発とは?もあわせてご覧ください。
AIアジャイル外注の契約形態と費用感
AIアジャイル開発を外注する際、契約形態の選択は非常に重要です。誤った契約形態を選ぶと、変更対応のたびにコストが膨らむ原因になります。
AI開発に準委任契約が向く理由
システム開発の外注契約には大きく「請負契約」と「準委任契約」があります。
比較項目 | 請負契約 | 準委任契約 |
|---|---|---|
成果物の保証 | 成果物の完成を保証 | 作業の提供を保証(成果物保証なし) |
仕様変更への対応 | 変更のたびに追加費用が発生しやすい | スプリントごとに優先順位を柔軟に変更可能 |
費用の計算方法 | プロジェクト全体の固定費用 | 月額(人×月単価)で計算 |
AI開発との相性 | 低(精度目標の保証が困難) | 高(試行錯誤を前提とした進め方に適合) |
AI開発では前述の通り、モデルの精度を事前に保証することが困難です。請負契約で「精度○%以上」を成果物として定義してしまうと、達成できない場合に契約上のトラブルになりやすいため、AI×アジャイル開発では準委任契約が一般的です。
なお、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「アジャイル開発版モデル契約」を公開しており、準委任型のアジャイル開発における契約のひな形を提供しています(https://www.ipa.go.jp/digital/model/agile20200331.html)。開発会社との契約交渉の参考として活用できます。
AIアジャイル開発の費用相場と予算設計
準委任契約の費用は「エンジニアの月額単価 × 人数 × 期間」で計算します。
AI×アジャイル開発で想定されるエンジニア月額単価の目安(2025年時点):
エンジニアのスキルレベル | 月額単価の目安 |
|---|---|
AIエンジニア(機械学習専門) | 80〜150万円 |
フルスタックエンジニア(AI統合可能) | 60〜100万円 |
バックエンドエンジニア(AI周辺実装) | 50〜80万円 |
なお、これはエンジニア1名あたりの費用です。プロジェクトにはAIエンジニア・バックエンドエンジニア・PMなど複数名が関わることがほとんどです。
予算規模の参考値:
- 小規模プロジェクト(PoC〜MVP): 2名チーム × 3ヶ月 = 300〜600万円程度
- 中規模プロジェクト(MVP〜本開発): 3〜4名チーム × 6ヶ月 = 900〜2,400万円程度
これらはあくまで目安であり、プロジェクトの複雑さやデータ量・既存システムとの統合難易度によって大きく変動します。
フェーズ別の予算管理(PoC・MVP・本開発)
AIアジャイル開発の予算管理では、「フェーズごとに予算を分けて承認する」アプローチが効果的です。
推奨する予算管理の考え方:
- PoC予算: まず小さく始めるための予算(100〜200万円程度)。ここで実現可能性を確認してから次の予算を確定させる
- MVP予算: PoCの結果を踏まえて設定(300〜600万円程度)。MVP完成後に本格投資するかを判断する
- 本開発予算: MVPの利用結果に基づいて設定(追加機能・精度改善のための継続的な投資)
プロジェクト全体の予算を最初に確定させるのではなく、フェーズごとに実績を確認しながら追加承認するサイクルにすることで、リスクを段階的にコントロールできます。
AI×アジャイル開発会社を選ぶポイントとチェックリスト
いざ開発会社を選ぼうとすると、「AI開発の実績があるか」「アジャイル開発の経験があるか」をどう確認すればいいか迷う方が多いと思います。具体的な確認ポイントとヒアリング時の質問リストをまとめました。
アジャイル実績を確認する3つのポイント
① スプリントの運用実績を確認する
「アジャイル開発をやっています」という会社は多いですが、実際にスプリントレビューを定期開催しているか、バックログ管理ツール(Jira・GitHubプロジェクト等)を活用しているかを確認してください。実際の運用ツール・プロセスを聞けば、本当にアジャイルを実践している会社かどうかが分かります。
② 発注者との定期コミュニケーション体制を確認する
週次の定例ミーティングを設定しているか、Slackなどのチャットツールでリアルタイムに連絡が取れるかを確認してください。スプリントレビューへの発注者の参加を前提とした体制を整えている会社かどうかが重要です。
③ 過去のアジャイル案件の具体的な事例を確認する
「アジャイルで開発しました」という事例を聞くだけでなく、「スプリント中に発注者からの要件変更が発生した場合、どのように対応しましたか?」という具体的な質問をしてみてください。実際の経験に基づいた回答ができるかどうかで、実践力を判断できます。
AI開発経験を確認する3つのポイント
① 対応できるAI・機械学習技術の範囲を確認する
「AIが得意」と言っていても、生成AIのAPIを使ったアプリ開発のみの会社と、機械学習モデルのゼロから構築・学習・評価まで対応できる会社では、技術力が大きく異なります。必要な技術(機械学習モデル開発・API統合・データ前処理等)に対応できるかを具体的に確認してください。
② データ収集・前処理の経験を確認する
AIモデルの精度は学習データの質に大きく依存します。「データが手元にない状態からでもサポートできるか」「データのラベリング・クレンジングの経験はあるか」を確認してください。
③ 精度管理・評価の方法を確認する
「どのような指標でモデルの精度を管理していますか?」「スプリントレビューでどのように精度の進捗を発注者に報告しますか?」という質問への回答で、AIエンジニアとしての経験値を判断できます。
ヒアリング時のチェックリスト(7項目)
開発会社への問い合わせ・ヒアリング時に、以下の7項目を確認することをおすすめします。
- スプリント運用の具体的な方法(使用ツール・スプリント期間・レビューの進め方)
- 発注者との定期コミュニケーション体制(週次定例の有無・チャットツール対応)
- AI・機械学習の対応範囲(モデル開発from scratch vs APIアプリ開発の違い)
- データがない状態からの支援可否(データ収集・ラベリング・前処理のサポート体制)
- PoCの経験とPoC後の継続率(PoC段階から受注しているか、本開発への移行率)
- 類似プロジェクトの事例と実際の精度実績(同業種・同規模の案件実績)
- 契約形態の柔軟性(準委任契約・フェーズ別の予算設計に対応できるか)
秋霜堂株式会社では、全案件でアジャイル開発を採用しています。週次定例とSlackによるリアルタイムコミュニケーションを標準とし、スプリントレビューへの発注者参加を前提とした開発体制を整えています。AI機能の統合・改善も含めたシステム開発の実績があり、上記のチェックリストの全項目に対応可能です。AI×アジャイル開発に関するご相談はTechBandまでお気軽にお問い合わせください。
まとめ:AIアジャイル開発を成功させるために
本記事でお伝えしたポイントを整理します。
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AIアジャイル開発はAI機能をアジャイルで外注するアプローチ: 生成AIツールを使った開発加速(AI活用×アジャイル)とは別の概念です
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アジャイルが必要な理由は「AIの不確実性」: モデル精度は作ってみないと分からない、要件が変わりやすい、早期に価値を確認できる──という3つの理由からウォーターフォールよりアジャイルが適しています
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発注者の関与が成否を決める: スプリントレビューへの積極的な参加と、業務観点からのフィードバックが不可欠です。エンジニアに任せきりにせず、発注者側が主体的に関与してください
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準委任契約×フェーズ別予算が基本: 精度保証が難しいAI開発では準委任契約が一般的です。PoC→MVP→本開発とフェーズごとに予算を確定させることでリスクを管理できます
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チェックリストで開発会社を見極める: アジャイルとAI開発、両方の実践経験がある会社かどうかを、本記事の7項目チェックリストで確認してください
まず始めるべきことは、「どのAI機能を開発したいか」を整理したうえで、PoC規模のヒアリングを数社に依頼することです。いきなり本開発の見積もりを取るのではなく、「まずPoCから始められますか?」と聞いてみることで、その会社のアジャイルへの理解度も同時に確認できます。
AI受託開発の基礎知識についてはAI受託開発とは?も、アジャイルの基礎についてはアジャイル開発とは?もあわせてご覧ください。
はじめての AI 導入ガイド――中小企業が失敗しないための7ステップ

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