ベンダーから「複数のAPIを連携するためにAPIゲートウェイが必要です」と言われたとき、どう返答すればよいか分からなかったという経験はないでしょうか。
提案書や見積書に「APIゲートウェイ: 月額〇〇万円」という行が登場しても、それが何をするものなのか、本当に必要なのか、費用は妥当なのかを判断するのは簡単ではありません。社内にエンジニアがいれば確認できますが、専任の技術者がいない中小企業では、ベンダーの説明を一方的に受け入れるしかないケースが少なくありません。
この記事では、APIゲートウェイという技術を「発注者として知っておくべき範囲」で解説します。
難しい技術的な詳細よりも、「なぜ費用がかかるのか」「本当に自社のケースで必要か」「ベンダーにどう確認すればよいか」という実務的な視点を中心にまとめています。この記事を読めば、次のベンダーMTGで適切な質問ができるようになるはずです。
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APIゲートウェイとは?一言で言えば「APIの受付窓口」

APIゲートウェイを一言で説明すると、「複数のAPIへのアクセスを一箇所でまとめて管理するための仕組み」です。
ビルの受付カウンターを例に考えてみてください。来訪者はまず受付で用件を告げ、担当部署に案内してもらいます。担当者に直接電話して「今から行きます」と言ってアポなしで訪問するのではなく、受付というワンクッションを挟むことで、セキュリティ確認・訪問記録・適切な案内が実現します。
APIゲートウェイはこの「受付カウンター」にあたります。外部からのリクエスト(スマートフォンアプリ・Webブラウザ・他のシステムなど)は、まずAPIゲートウェイに届き、そこで認証・制御・ルーティングが行われてから、適切なバックエンドAPIへと転送されます。
APIとAPIゲートウェイの違い
APIは「2つのシステムをつなぐ窓口」です。たとえば「会員情報を取得するAPI」「在庫を確認するAPI」「決済を処理するAPI」のように、機能ごとに個別のAPIが存在します。
システムが小規模であれば、アプリがそれぞれのAPIに直接アクセスする構成で問題ありません。ところが、APIが10本・20本と増えてくると問題が起きます。
- 各APIに個別でセキュリティ認証を実装しなければならない
- どのAPIがどのくらい使われているかを把握するのが難しくなる
- 1つのAPIに問題が起きたとき、全体への影響を制御できない
- 外部に公開するAPIのURLが複数になり、管理が複雑になる
APIゲートウェイはこれらの問題をまとめて解決する「統合的な受付窓口」として機能します。
なぜ複数のAPIを束ねる必要があるのか
現代のシステム開発では「マイクロサービス」と呼ばれる設計手法が広まっています。これは、1つの大きなシステムを「会員管理」「商品管理」「決済」「通知」などの小さなサービスに分割して開発・運用する方法です。
各サービスが独立して動くため、メンテナンスやアップデートがしやすくなる一方で、外部からのアクセスポイントが増加します。APIゲートウェイは、この複数のサービスへのアクセスを「1つの入口」として整理する役割を担っています。
APIゲートウェイが担う5つの役割
「なぜAPIゲートウェイが必要か」を理解するには、それが担う機能を知ることが近道です。主な機能を5つ挙げます。
認証・認可の一元管理
「このリクエストは正当なユーザーからのものか」を確認する認証処理は、セキュリティ上欠かせません。
APIゲートウェイがない場合、各APIにそれぞれ認証ロジックを実装する必要があります。10本のAPIがあれば10箇所に同様のコードを書き、それぞれ保守しなければなりません。
APIゲートウェイを使うと、認証処理をゲートウェイ1箇所に集約できます。「ゲートウェイが認証を通過したリクエストだけがバックエンドに届く」という仕組みになるため、開発コストとセキュリティリスクの両方を下げられます。
レート制限とセキュリティ対策
「1秒間に1000回リクエストを送り続ける」ような異常なアクセスは、悪意ある攻撃(DoS攻撃)の可能性があります。また、APIキーを総当たりで試みる不正アクセスも存在します。
APIゲートウェイは、こうした異常なリクエストを検知してブロックする「レート制限」機能を持ちます。「1ユーザーあたり1分間に最大100リクエスト」というようなルールを設定し、それを超えたリクエストを自動的に拒否します。
これも各APIに個別実装する場合と比べ、ゲートウェイ1箇所で管理できることが費用対効果の根拠になります。
ルーティングとロードバランシング
外部からのリクエストを「適切なバックエンドサービスに振り分ける」のがルーティングです。たとえば /api/users というURLへのリクエストは会員管理サービスへ、/api/products へのリクエストは商品管理サービスへという具合です。
ロードバランシングは、同一サービスが複数台のサーバーで動いている場合に、リクエストを均等に分散させる機能です。1台に集中しないようにすることで、高負荷時でも安定した応答が維持できます。
ログ・監視・分析
「どのAPIがどれだけ使われているか」「エラーはどのくらい発生しているか」という情報は、サービス改善やトラブル対応に欠かせません。
APIゲートウェイはすべてのリクエスト・レスポンスを記録し、ダッシュボードで確認できる形にします。問題が起きたときの調査(どのタイミングでエラーが増えたか、特定のユーザーからのリクエストが原因かなど)が格段に効率化されます。
SSL終端
HTTPSによる暗号化通信を終端(復号)する処理をAPIゲートウェイが担います。バックエンドサービスは暗号化処理を意識せず、ゲートウェイが一括して対応します。証明書の管理もゲートウェイ側に集約されるため、更新漏れなどのリスクが減ります。
主なAPIゲートウェイサービスと費用感

「APIゲートウェイが必要」と言われた場合、具体的にどのサービスを使うかによって費用は大きく変わります。代表的な選択肢と費用の目安を整理します。
クラウドマネージド型の費用モデル(AWS / Google Cloud / Azure)
主要クラウドプロバイダーが提供するマネージドサービスは、初期費用なし・従量課金が基本です。
AWS API Gateway
最も普及しているAPIゲートウェイサービスの1つです(Amazon API Gatewayの料金)。
タイプ | 費用の目安 |
|---|---|
HTTP API | 100万リクエストあたり約$1(東京リージョン) |
REST API | 100万リクエストあたり約$3.50(東京リージョン) |
WebSocket API | 100万メッセージあたり約$1.00 |
月間100万リクエストであれば$1〜$3.50(約150〜500円)と非常に安価ですが、リクエスト数が増えると費用が増加します。月間10億リクエストを超えるような大規模システムでは月額数十万円規模になることもあります。
また、AWS上の他サービスへのデータ転送料金も別途発生するため、見積もりの際は確認が必要です。
Google Cloud API Gateway / Apigee
Google Cloudには軽量な「API Gateway」とエンタープライズ向けの「Apigee」の2種類があります(Google Cloud API Gatewayの料金)。
サービス | 費用の特徴 |
|---|---|
API Gateway(軽量版) | 200万リクエストまで無料、以降$3/百万リクエスト |
Apigee | 従量課金(pay-as-you-go)または定額契約。エンタープライズ向けで機能が豊富 |
Apigeeは機能が充実している分、コストも高めになる傾向があります。エンタープライズ契約の場合はGoogleへの問い合わせが必要です。
OSS型の費用モデル(Kong)
KongはオープンソースのAPIゲートウェイで、ソフトウェア自体は無料で利用できます(Kong Gateway公式サイト)。ただし、インフラコスト(サーバー費用)と運用コスト(管理工数)が発生します。
区分 | 内容 |
|---|---|
OSS(無料) | コア機能は無料。自前のサーバー上に構築・運用 |
Kong Konnect(有料SaaS) | マネージドサービス版。月額$105程度〜(リクエスト数に応じて変動) |
Kong Enterprise | 大規模企業向け。要問い合わせ |
KongのOSS版はソフトウェア費用が無料である反面、「誰がサーバーを管理するか」「障害時に誰が対応するか」という運用コストが発生します。エンジニアの工数コストを含めると、小規模なシステムではマネージドサービスより割高になるケースも少なくありません。
費用に影響するリクエスト数・機能の見積もり方
APIゲートウェイの費用は主に以下の要素で変わります。ベンダーから見積もりを受けた際の確認ポイントとしてお使いください。
要素 | 費用への影響 |
|---|---|
月間リクエスト数 | 従量課金型サービスでは最も直接的に費用に影響する。ピーク時と平均値を確認する |
データ転送量 | 大量のデータを返すAPIは転送料金がかかる |
機能の範囲 | 認証・WAF・キャッシュなどのオプション機能を追加すると費用が上がる |
冗長構成の有無 | 障害時のバックアップ構成を持つかどうか(可用性要件) |
マネージド vs OSS | OSS選択時は運用エンジニアの工数コストが加算される |
自社のケースでAPIゲートウェイは本当に必要か?規模別の判断基準
「必要と言われたから導入する」ではなく、自社のケースに照らして判断することが重要です。
APIゲートウェイが不要なケース
以下のような構成であれば、APIゲートウェイなしで進められる可能性があります。
- 連携するAPIが1〜2本のシンプルな構成
- 外部に公開するAPIがなく、自社システム内だけで完結する
- アクセス数が少なく、セキュリティ要件も高くない
- モノリシック(一体型)なアーキテクチャで、マイクロサービスを採用しない
ただし「今はシンプルだが将来的に拡張する予定がある」場合は、後からAPIゲートウェイを追加するコストが大きくなることも考慮が必要です。
APIゲートウェイが必要なケース
逆に、以下の条件に1つでも当てはまる場合はAPIゲートウェイの導入が合理的です。
- 複数のバックエンドサービス(マイクロサービス)を連携させる
- 外部のパートナーや顧客向けにAPIを公開する
- 不正アクセス対策・レート制限などのセキュリティ要件がある
- アクセスログや利用状況の分析が必要
- 将来的にスケールアップ(利用者・機能の拡張)を見込んでいる
特に「外部公開API」はセキュリティリスクが高く、ゲートウェイなしでの運用は危険です。
コスト対効果の考え方
「APIゲートウェイに月額数万円かかる」と聞くと高く感じるかもしれませんが、各APIに個別でセキュリティ・認証・ログ機能を実装した場合の開発コストと比較してみてください。
仮に10本のAPIそれぞれに認証実装を行うと、1本あたり数日の開発工数がかかります。エンジニアの日単価を5〜8万円とすると、認証だけで数十万〜100万円超の開発コストになります。APIゲートウェイを導入すれば、この実装コストを大幅に削減できます。
月額の運用費用だけでなく、「ゲートウェイなしで同等の機能を実現するための開発コスト」を比較することが重要です。
発注者がベンダーに確認すべき5つのポイント

最後に、見積もりやMTGでベンダーに確認すべき具体的な質問をまとめます。
1. なぜこのサービス(AWS / Kong など)を選んだのか
選定した理由を確認します。「使い慣れているから」「価格が安いから」だけでなく、「御社のリクエスト規模・セキュリティ要件にはこのサービスが最適だから」という根拠があるか確認してください。
2. リクエスト数の見積もり根拠は何か
従量課金型サービスの場合、月間リクエスト数が費用を左右します。「どのような前提でリクエスト数を見積もったか」「利用者が増えた場合の費用はどう変わるか」を確認しておきましょう。
3. OSSとマネージドサービスの比較検討はしたか
特にKongのようなOSSと、AWS API Gatewayのようなマネージドサービスでは、費用構造が異なります。「なぜOSSを選んだか(あるいはマネージドを選んだか)」「運用工数込みでのコスト比較は行っているか」を聞いてみてください。
4. ゲートウェイなしの構成と比較検討したか
APIが1〜2本であれば、ゲートウェイなしでも実現できるケースがあります。「ゲートウェイが必要な技術的理由は何か」「なしで実装した場合の代替手段とコストはどうなるか」を確認することで、本当に必要かどうか判断できます。
5. 今後のスケールに対する費用の見通しはあるか
「今は月額X万円だが、利用者が倍になったらどうなるか」というシナリオを確認しておきましょう。特に従量課金型のサービスは、想定外の利用増加によって費用が急増するケースがあります。上限の設定方法(バジェットアラート等)についても確認を。
この記事で解説した内容を理解した上でベンダーと対話することで、「なんとなく承認する」のではなく、根拠を持った意思決定ができるようになります。
APIゲートウェイは、適切な規模・要件のシステムに正しく導入すれば、開発コストの削減とセキュリティ向上を同時に実現できる有効な仕組みです。一方で、シンプルなシステムに不要なコストを上乗せするケースもあります。発注者として「本当に必要か」「費用の根拠は何か」という視点を持つことが、良いシステム開発につながります。
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