「インフラをコードで管理する」という話を聞いたことはありますか。TerraformやAWS CDKという名前を耳にする機会が増えているものの、「具体的に何から始めればいいのか分からない」「TerraformとCDK、どちらを選べばいいのか判断できない」という悩みを持つエンジニアやチームリーダーは多いものです。
手動でのインフラ管理に課題を感じていても、IaC化のリスクや学習コストが不明なままでは、なかなか踏み出せないのが現実です。
本記事では、IaC(Infrastructure as Code)の基本概念から、TerraformとAWS CDKの特徴・違い・選び方まで、アプリエンジニアやチームリーダーが自分のプロジェクトに適用する視点で解説します。「概念は知っているが、自分たちのプロジェクトへの適用方法が分からない」という段階の方に向けて、実践的な判断軸と最初のステップをお伝えします。
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IaC(Infrastructure as Code)とは?
IaC(Infrastructure as Code)とは、サーバーやネットワーク、データベースなどのインフラ環境を、手動操作ではなくコード(テキストファイル)で定義・管理する考え方です。インフラの構成を「設計図」としてコード化することで、同じ環境を何度でも自動的に再現できるようになります。
手動インフラ管理の課題
従来のインフラ管理では、担当者がクラウドのコンソール画面を操作したり、シェルスクリプトで手順を記述したりして環境を構築していました。この手動管理には、大きく3つの課題があります。
1. 属人化 作業手順が担当者の頭の中にしかなく、「あの人しか分からない」という状況が生まれます。担当者の異動や退職があると、インフラの状況が不明になります。
2. 再現性のなさ 開発環境と本番環境で設定がずれていたり、複数のサーバーで微妙に異なる設定になっていたりすることがあります。「開発環境では動いたのに本番で動かない」という問題の多くは、この環境差異から生じています。
3. ヒューマンエラーのリスク 手作業によるコンソール操作やスクリプト実行は、設定のミスや手順のスキップが発生しやすく、障害の原因になることがあります。特に複数のサーバーや環境を同時に管理する場合、手作業での一貫性維持は困難です。
IaCが解決すること
IaCはこれらの課題を、インフラをコードとして記述することで解決します。

- 設計図通りの再現性: コードを実行するだけで、常に同じ構成の環境が作られます。「ステージング環境と本番環境を同じコードから構築する」ことが容易になります
- Gitによるバージョン管理: インフラの変更履歴をGitで管理できます。「いつ、誰が、どんな変更をしたか」が追跡でき、問題が起きたときにロールバックも可能です
- CI/CDパイプラインとの統合: コードのデプロイと同じ仕組みで、インフラの変更も自動化できます。Pull Requestのレビュー → マージ → 自動デプロイというフローを、インフラ変更にも適用できます
IaCの宣言的アプローチと命令的アプローチ
IaCのアプローチには「宣言的」と「命令的」の2種類があります。
宣言的アプローチは、「最終的にこういう状態にしてほしい」と定義するスタイルです。TerraformやCloudFormationはこのアプローチを採用しています。現在の状態と目標の状態を比較し、差分を自動的に解消してくれます。べき等性(同じコードを何度実行しても同じ結果になる性質)があるため、安全に繰り返し実行できます。
命令的アプローチは、「この順序でこの手順を実行せよ」と手順を記述するスタイルです。シェルスクリプトやAnsibleの一部がこれに該当します。柔軟な処理が書けますが、べき等性の確保は開発者の責任になります。
現代のIaCツール(Terraform・AWS CDK)は宣言的アプローチを採用しており、インフラの「理想状態」を記述することで管理します。
IaCのメリット・デメリット
主なメリット
IaCを導入することで、以下のメリットが得られます。
-
一貫性・再現性の確保: 環境ごとの設定差異がなくなります。開発・ステージング・本番を同一のコードから構築することで、「本番だけ動かない」問題を防げます
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自動化による効率化: 環境構築が手作業の数時間から数分に短縮されます。新しいチームメンバーが参加したときも、コマンド一つで開発環境を立ち上げられます
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バージョン管理と監査証跡: インフラの変更履歴がGitに残ります。「いつ、何が変わったか」が明確になり、コンプライアンス対応や障害調査が容易になります
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チームコラボレーション: インフラの変更をコードレビューのプロセスに乗せられます。アプリコードと同様に、Pull Requestで変更内容を確認・承認してからデプロイできます
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コスト削減: 手作業工数の削減に加え、ヒューマンエラーによる障害コストも低減できます。特に本番環境の構築ミスによる障害は、ビジネス的なインパクトが大きいため、IaC化による効果は大きいです
導入時の注意点・デメリット
一方で、IaC導入にあたっては以下の点に注意が必要です。
学習コストの発生 Terraformの場合はHCL(HashiCorp Configuration Language)という独自言語、AWS CDKの場合はCloudFormationの抽象化モデルへの理解が必要です。チームメンバー全員が学習する工数を見込んでおく必要があります。
既存インフラのIaC化には工数がかかる すでに手動で構築したインフラをIaC化(インポート)するのは、新規構築より手間がかかります。段階的な移行計画が必要です。
運用ルールの整備が必要 ステートファイルの管理(Terraformの場合)やチームでのワークフロールール(誰がapplyするか、ブランチ運用など)を事前に決める必要があります。これを怠ると、かえって混乱が生じることがあります。
代表的なIaCツール:TerraformとAWS CDK
IaCツールはいくつかありますが、2024〜2026年現在で特に採用が多いのがTerraformとAWS CDKです。
Terraformとは
Terraformは、HashiCorp社(現在はIBM傘下)が開発したオープンソースのIaCツールです。HCL(HashiCorp Configuration Language)という独自言語でインフラを記述します。
最大の特徴はマルチクラウド対応です。AWS・GCP・Azure・その他クラウドサービスを一つのツールで管理できます。1,000を超えるプロバイダーエコシステムがあり、クラウドサービスだけでなく、GitHub・Datadog・New Relicなどの外部サービスも管理対象にできます。
HCLはシンプルな構文で、インフラエンジニアを中心に広く使われており、業界標準のツールとして位置づけられています。転職市場でもTerraformのスキルは評価されやすく、エコシステムが非常に成熟しています。
AWS CDKとは
AWS CDK(Cloud Development Kit)は、AWSが公式に提供するIaCフレームワークです。TypeScript・Python・Java・C#などの一般的なプログラミング言語でAWSリソースを定義できます。
内部的にはAWS CloudFormationのテンプレートを自動生成し、CloudFormation経由でAWSリソースをデプロイします。「Constructs」という仕組みでリソースを高レベルに抽象化でき、よく使われるパターン(VPC + ECS + ALBなど)をまとめて定義できます。
AWS公式のツールのため、新しいAWSサービスへの対応が早く、AWSとの親和性が高いことが特徴です。既存のTypeScriptやPythonの知識を活かしてIaCを始められるため、アプリエンジニアにとって学習のハードルが低い選択肢です。
TerraformとAWS CDKの選び方
どちらのツールを選ぶかは、プロジェクトの性質・チームのスキルセット・将来の拡張計画によって異なります。以下の比較表と判断軸を参考にしてください。
比較表:主な違い
観点 | Terraform | AWS CDK |
|---|---|---|
記述言語 | HCL(独自言語) | TypeScript/Python/Java等 |
対応クラウド | マルチクラウド | AWS専用 |
学習コスト | 低〜中(HCLはシンプル) | 中(既存言語知識を活かせる) |
抽象化レベル | 低(リソースを直接定義) | 高(Constructsで高レベル抽象化) |
コミュニティ | 非常に大きい(成熟) | 中〜大(急成長中) |
AWS新サービス対応 | やや遅れる場合あり | 迅速(AWS公式のため) |
プロジェクトタイプ別の判断軸
秋霜堂株式会社では、複数のプロジェクトでTerraformとAWS CDKを使い分けてきた経験があります。その実務経験をふまえた判断軸をご紹介します。
Terraformが向くケース
- マルチクラウド環境: AWS以外(GCP・Azureなど)も併用する、または将来的に使う可能性がある
- インフラ専門チームがいる組織: インフラエンジニアがHCLを習得して管理することで、アプリと分離した管理が容易
- 大規模・長期運用前提のプロジェクト: Terraformのモジュールシステムとエコシステムは、大規模インフラ管理に向いている
- 既存インフラがある場合:
terraform importで既存リソースをIaC管理下に取り込める
秋霜堂の実績では、アパレル品質管理システムのAWS IaC化でTerraformを採用しました。既存の手動管理インフラが存在し、マルチリージョン対応が必要だったため、Terraformの豊富なエコシステムと柔軟なモジュール構造が適していました。
AWS CDKが向くケース
- AWS専用のプロジェクト: GCPやAzureを使わず、AWSのみで完結する
- アプリエンジニアがインフラも担当するフルスタック体制: TypeScript/Pythonの既存スキルでIaCを書けるため、専門知識のハードルが低い
- 複雑なロジックをインフラコードに含めたい: 条件分岐・ループ・関数など、プログラミング言語の機能をそのまま活かせる
- 小規模〜中規模で素早く立ち上げたいプロジェクト: ボイラープレートが少なく、Constructsで素早く構築できる
秋霜堂のSNSマーケティング支援システム開発では、AWS専用のサーバーレスアーキテクチャにAWS CDKを採用しました。フルスタックエンジニアがTypeScriptでフロントエンドからインフラまで一貫して担当できる体制で、開発効率が向上しました。
ハイブリッド活用のケース
AWS中心ながらGCPも一部使用する場合は、AWS部分をCDK、GCP部分をTerraformで管理するハイブリッド運用も実践的な選択です。
チームスキルと学習コストの考慮
選定においてよく見落とされるのが、チームの現状スキルとの相性です。
チームの状況 | 推奨ツール | 理由 |
|---|---|---|
アプリエンジニアが多く、インフラ専任不在 | AWS CDK(TypeScript推奨) | 既存スキルをそのまま活かせる |
インフラエンジニアが主導 | Terraform | 業界標準・エコシステムが成熟 |
マルチクラウドで複数チームが関わる | Terraform | プロバイダー横断の一貫した管理 |
小規模・スタートアップで素早く動かしたい | AWS CDK | Constructsで素早く高レベルに構築 |
IaC導入のはじめ方(実践的ステップ)
IaC化の概念と方針が決まったら、次は実際に始める段階です。多くのチームが陥る失敗は「最初から全てをIaC化しようとする」ことです。以下のステップで段階的に進めることをお勧めします。
ステップ1: 小さなスコープから始める
いきなり全インフラをIaC化しようとすると、複雑さと学習コストが重なって挫折しやすくなります。まずは開発環境の1つのサービス(例: S3バケットとIAMロールだけ)など、小さなスコープから始めましょう。
「手動で作成済みの環境をIaCで再定義する」練習から始めると、ツールの動作を確認しながら習得できます。Terraform・CDKどちらも、planやdiffコマンドで実際に変更される内容を事前に確認できるため、既存環境への影響を確認してから進められます。
ステップ2: 変更内容を必ず事前確認する
IaCツールには必ず「実際には変更を加えず、何が変わるかを確認するコマンド」があります。これを使う習慣を身につけることが重要です。
- Terraform:
terraform planで作成・変更・削除されるリソースを確認してからterraform applyを実行する - AWS CDK:
cdk diffで変更差分を確認してからcdk deployを実行する
本番環境での apply/deploy は、planやdiffを確認してからという運用ルールを最初から徹底することをお勧めします。
ステップ3: バックエンドとステート管理を設計する
Terraformはインフラの現在状態を「ステートファイル(terraform.tfstate)」として保存します。このファイルをローカルに置いたまま複数人で作業すると、整合性が失われます。最初から以下の設計を行ってください。
- Terraform: tfstateをAWS S3に保存し、DynamoDBで排他ロックを設定する(公式ドキュメント推奨)
- AWS CDK: CloudFormationスタックがステート管理の役割を担うため、CDKToolkitスタックを共有AWSアカウントにデプロイする
チーム開発では、最初から共有バックエンドを設計することで、後からの移行コストを避けられます。
ステップ4: CI/CDへの組み込み
IaC運用が安定してきたら、CI/CDパイプラインへの統合を目指します。
- Pull Requestのタイミング:
terraform plan/cdk diffを自動実行し、変更内容をPRのコメントに出力する - mainブランチへのマージ:
terraform apply/cdk deployを自動実行する - 対応ツール: GitHub ActionsやAWS CodePipelineとの統合が一般的です
これにより、インフラの変更もアプリのデプロイと同様に、コードレビューと自動テストのプロセスに乗せられます。
IaC導入初期でハマりやすいポイント
IaC導入初期によくあるつまずきポイントと、その対処法を紹介します。
ステートファイルの競合・破損
複数人が同時に terraform apply を実行すると、ステートファイルが破損することがあります。DynamoDBによるステートロックを設定することで防げます。もしステートが壊れた場合は、S3のバージョニング機能で以前の状態に戻せます。
既存インフラとのインポート時のdrift
手動で作成したリソースを terraform import でIaC管理下に取り込む際、実際のリソースの状態とコードの定義がずれる(drift)ことがあります。インポート後は必ず terraform plan で差分がゼロになることを確認してから、チームに展開してください。
モジュール化の過度な抽象化
最初から汎用的なモジュールを作ろうとして、複雑な抽象構造を作ってしまうケースがあります。まずはフラットな構成で動かすことを優先し、共通パターンが見えてきてから段階的にモジュール化する方が、長期的に保守しやすいコードになります。
まとめ
IaC(Infrastructure as Code)は、インフラを「設計図としてコード化」することで、再現性・一貫性・自動化を実現する考え方です。手動インフラ管理の属人化・再現性のなさ・ヒューマンエラーというリスクを根本的に解消します。
TerraformとAWS CDKの選び方は、以下のポイントで判断してください。
- マルチクラウド環境、または将来的なクラウド拡張を想定する場合 → Terraform
- AWS専用で、アプリエンジニアがインフラも担当するフルスタック体制の場合 → AWS CDK(TypeScript)
- チームスキルに合わせる場合 → インフラエンジニア主導ならTerraform、アプリエンジニア主導ならCDK
導入は「小さなスコープから始めて、CI/CDへの組み込みまで」を目標に進めることをお勧めします。最初から全てを完璧にする必要はなく、段階的に適用範囲を広げていくアプローチが長続きします。
秋霜堂株式会社では、TerraformとAWS CDKの双方を活用したシステム開発の実績があります。IaCの導入やクラウドインフラ設計についてお困りの場合は、お気軽にご相談ください。
システム開発 完全チェックリスト――発注前・発注中・完了後の3フェーズで使えるチェック集

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システム開発の外注・発注を初めて経験する担当者や、過去に失敗を経験した担当者が、発注プロセスの各フェーズで「何をチェックすべきか」を明確に把握できるようにする。
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