「取適法への対応はどうなりますか」。取引先のベンダーやフリーランスエンジニアから、こう尋ねられて慌てた発注担当者の方は少なくないはずです。あるいは、上司から「うちは取適法の対象か確認しておいて」と指示され、何から手をつければよいか分からないまま情報収集を始めた方もいるでしょう。
2026年1月1日、これまでの「下請法」が改正・改称され、「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。システム開発や保守・運用、データ入力などをベンダーや個人事業主に委託している企業にとって、これは決して他人事ではありません。発注書の交付方法、支払いの期日、価格交渉の進め方など、日々の発注実務に直結するルールが変わっているからです。
とはいえ、法律の条文をそのまま読んでも、自社のIT外注フローのどこを、いつまでに、どう変えればよいのかは見えてきません。情報システム部門や調達担当の方が本当に知りたいのは、「自社は対象なのか」「対象なら現行フローの何がアウトで、何を直せばよいのか」という、具体的なアクションのはずです。
この記事では、取適法がIT外注(システム開発・保守・運用などの委託)にどう適用されるのかを整理したうえで、発注者が守るべき義務、現行の発注フローの見直しポイントを工程ごとに解説します。さらに、記事の後半には発注担当者がその場で自社の発注実務を点検できるセルフチェックリストも用意しました。読み終えるころには、「自社が対応すべきはこの数点」と上司に報告できる状態を目指せます。
フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド

この資料でわかること
業務委託でエンジニアに発注する企業担当者・法務担当者が、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」への対応を含め、業務委託契約に関する法律・契約実務を体系的に把握し、自社のコンプライアンス体制を整備できる状態にする。
こんな方におすすめです
- フリーランス新法への対応状況を社内で点検したい企業担当者
- 業務委託契約書・NDAの記載事項を確認したい法務担当者
- 偽装請負リスクを把握し指揮命令の境界線を整理したい開発マネージャー
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
取適法(中小受託取引適正化法)とは|30秒でわかる要点
取適法(中小受託取引適正化法)は、2026年1月1日に施行された法律です。正式名称は長いものの、内容としては「これまでの下請法を改正し、名前を変えたもの」と理解しておけば、まずは十分です。
この法律の目的は、システム開発や物品製造などを発注する側(大企業など)と、それを受注する中小事業者や個人事業主との取引を公正なものにし、受注側が不当に不利益を被らないようにすることにあります。原材料費や人件費が上がっても価格に転嫁できない、支払いがいつまでも遅れる、といった受注者の困りごとに対応するための仕組みです(政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」)。
IT外注の発注者にとっての一言サマリーを先に示すと、次のとおりです。「ベンダーやフリーランスにシステム開発・保守などを委託しているなら、発注書の交付・支払期日の設定・価格協議への対応など、発注実務のルールを取適法に合わせて点検する必要がある」。自社が対象になるかどうか、何を変えるべきかは、このあとのセクションで順を追って解説します。
下請法から何が変わったのか
取適法は下請法をベースにした法律ですが、いくつかの重要な変更があります。発注担当者がまず押さえておきたいのは、用語の変更です。
これまでの下請法では、発注する側を「親事業者」、受注する側を「下請事業者」と呼んでいました。取適法では、それぞれ「委託事業者」「中小受託事業者」という呼び方に変わっています。「下請」という言葉が持つ上下関係のイメージを避け、対等な取引関係を示す狙いがあるとされています。
この記事でも、以降は発注者を「委託事業者」、受注者を「中小受託事業者」と表記します。取引先からの問い合わせや社内文書で新しい用語が使われていても戸惑わないよう、まず言葉の対応関係を頭に入れておきましょう。
なぜ今、発注者が対応を迫られているのか
取適法はすでに2026年1月1日から施行されています。つまり、「これから準備すればよい」段階ではなく、「現時点で発注実務が法律に適合しているか」を確認すべき段階に入っています。
加えて、取適法では適用対象となる事業者の範囲が広がりました。従来の下請法は、発注者・受注者の「資本金」の額だけで対象かどうかを判定していました。取適法ではこれに「従業員数」という新しい基準が追加されています(公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」)。
この変更により、「資本金が小さいから自社は下請法の対象外だった」という企業でも、従業員数の基準によって取適法の対象になるケースが出てきます。「以前確認したら対象外だった」という記憶のまま判断すると、見落としが生じかねません。だからこそ、いま改めて自社の対象判定をやり直す必要があるのです。
IT外注・システム開発委託は取適法の対象になるのか

取適法への対応を考えるうえで、最初の関門が「そもそも自社のIT外注は取適法の対象なのか」という判定です。ここでは、対象になる委託の類型、発注者側の事業者要件、フリーランスへの委託の扱いを順に整理します。
対象になるIT外注の委託類型
取適法が対象とする取引は、製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託の5種類です。このうち、IT外注に関係するのは主に「情報成果物作成委託」と「役務提供委託」の2つです。
情報成果物作成委託とは、ソフトウェアのプログラムや設計図、デザインなどの「情報成果物」を作成する作業を委託する取引を指します(BUSINESS LAWYERS「取適法が適用される情報成果物作成委託とは?」)。IT外注に当てはめると、たとえば次のような委託が該当します。
- 自社で販売・提供するソフトウェアやアプリの開発を、外部の開発会社や個人プログラマーに委託する
- 顧客から受託したシステム開発の一部を、別のソフトウェア会社に再委託する
- 自社業務で使う社内システムやツールの開発を、外部のベンダーに委託する
- システムの設計書・仕様書、画面デザイン、Webサイトのデザイン制作を委託する
一方、役務提供委託は「役務(サービス)の提供」を委託する取引です。IT外注の文脈では、次のようなものが該当します。
- システムの運用・保守業務を委託する
- データ入力やデータの集計・処理(情報処理)を委託する
- サーバーの監視・運用などの業務を委託する
ここで、IT外注担当者が混乱しやすいポイントを1つ補足します。「プログラムを新たに作成する作業」は情報成果物作成委託に該当しますが、「すでにあるプログラムを使ってデータの計算・検索などを行う作業(情報処理)」は役務提供委託に分類されます。委託している内容が「作るのか」「処理するのか」で分類が変わる、と覚えておくとよいでしょう。
ただし、対象判定の規模基準については注意が必要です。情報処理の委託は役務提供委託の一種ですが、規模基準だけはプログラム作成の委託と同じ「資本金3億円超・従業員300人超」が適用されます。運用・保守などほかの役務提供委託(資本金5000万円超・従業員100人超)とは基準が異なるため、自社の委託が「情報処理」に当たる場合は次のセクションの規模基準と照らし合わせる際に取り違えないようにしてください。
発注者が対象になる事業者要件
委託の類型が対象に当てはまっても、それだけで取適法が適用されるわけではありません。発注者(委託事業者)と受注者(中小受託事業者)の規模が、一定の関係にあることが必要です。
取適法では、この規模を「資本金」または「従業員数」のいずれかの基準で判定します。どちらか一方の基準を満たせば対象になる点に注意が必要です。
IT外注に関わる類型では、基準が次のように分かれています。
委託の類型 | 発注者(委託事業者)の規模 | 受注者(中小受託事業者)の規模 |
|---|---|---|
プログラム作成の委託・情報処理の委託(※) | 資本金3億円超、または従業員300人超 | 資本金3億円以下(個人含む)、または従業員300人以下 |
上記以外の情報成果物作成委託(設計書・デザイン等)/役務提供委託(運用・保守等) | 資本金5000万円超、または従業員100人超 | 資本金5000万円以下(個人含む)、または従業員100人以下 |
(※「情報処理」とは、プログラムを用いたデータの演算・検索・集計などの処理を指します。)
注意したいのは、同じIT外注でも「プログラム作成・情報処理」と「それ以外(設計書・デザイン制作、運用・保守など)」で基準が異なる点です(公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」)。自社の委託内容がどちらに当たるかを確認したうえで、基準と照らし合わせてください。
そして、今回の改正で追加された従業員数基準により、「資本金が5000万円以下だから自社は対象外」と判断していた企業でも、従業員数が100人を超えていれば対象になる可能性があります。資本金だけでなく従業員数も併せて確認することが、判定ミスを防ぐ鍵です。
フリーランス・個人事業主への委託はどう扱われるか
近年、システム開発や運用をフリーランスエンジニアや個人事業主に委託するケースが増えています。この場合の扱いも整理しておきましょう。
取適法では、受注者が個人(個人事業主)であっても、発注者が上記の事業者要件(資本金または従業員数の基準)を満たせば、取引が対象になり得ます。「相手が会社ではなく個人だから取適法は関係ない」という理解は誤りです。
加えて、フリーランスへの業務委託については、取適法とは別に「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)」という法律も存在します。フリーランス法は、発注者の規模を問わず、フリーランスへの業務委託全般に一定のルールを課す法律です。
つまり、フリーランスにシステム開発などを委託している企業は、取適法とフリーランス法の両方を意識する必要があります。両法は適用範囲や規制内容が異なるため、「どちらの法律が適用されるか」「両方適用される場合に何を優先するか」といった判断が必要になる場面もあります。自社のフリーランス委託が多い場合は、専門家への確認を検討してください。
IT外注の発注者が守るべき5つの義務
自社のIT外注が取適法の対象だと分かったら、次に確認すべきは「発注者として具体的に何を守る必要があるのか」です。取適法は委託事業者(発注者)に対していくつかの義務を課しています。ここでは、IT外注の実務に直結する内容を5つの義務として整理します。
発注内容を明示する
発注者は、発注の際に、発注内容を記載した書面を交付するか、電磁的方法(メールやシステム上のデータなど、受注者の承諾を得た方法)で明示する義務があります。これは「書面交付義務」と呼ばれるもので、取適法でも引き継がれた基本的な義務です。
IT外注では、開発の範囲や仕様、納期が口頭の打ち合わせやチャットのやり取りだけで曖昧に決まってしまうことが少なくありません。しかし、発注内容を明示しないまま開発を進めると、後から「仕様の認識が違った」「やり直しの責任はどちらにあるのか」といったトラブルにつながります。
明示すべき内容には、委託する業務の内容(仕様)、納期、納品物の検査方法、代金の額、支払期日、支払方法などが含まれます。IT外注では仕様が固まりきらないまま発注に至ることもありますが、その場合でも「現時点で定められる事項を明示し、後から確定する事項は確定後すみやかに補充の書面を交付する」という対応が求められます。発注書の整備については、後述の「現行の発注フローの何を変えるべきか」のセクションでも詳しく扱います。
取引記録を作成・保存する
発注者は、取引の内容を記録した書類を作成し、一定期間(2年間)保存する義務があります。これは「書類保存義務」と呼ばれます。
記録すべき内容は、発注の内容、納品(受領)の日、検査の結果、代金の支払日や支払額などです。IT外注では、開発の進捗ややり取りがメールやチャット、プロジェクト管理ツールに散在しがちです。後から「いつ何を発注し、いつ受領し、いくら支払ったか」を説明できる状態にしておくことが、この義務への対応になります。
なお、この書類保存義務に違反した場合、刑事罰として50万円以下の罰金が定められています(TCNB「取適法の4つの義務とは?」)。記録の作成・保存は、軽視できない義務です。
支払期日を定め、60日以内に支払う
発注者は、代金の支払期日を定める義務があります。そして、その支払期日は「受注者から納品物を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間」で設定しなければなりません(クラウドサイン「取適法(旧下請法)の支払期日は60日以内が絶対ルール」)。
IT外注では、支払サイトが慣例的に「月末締め翌々月末払い」などに設定されていることがあります。この場合、受領日から数えると60日を超えてしまうケースが出てきます。自社の支払サイトが受領日起点で60日以内に収まっているかを、改めて確認する必要があります。
支払期日の起算点は「契約上の支払期日」ではなく「実際に納品物を受領した日」である点に注意してください。検収にかかる時間も含めて60日以内に支払う設計が求められます。
支払が遅れたら遅延利息を払う
定めた支払期日までに代金を支払わなかった場合、発注者は受注者に対して遅延利息を支払う義務があります。遅延利息は、受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの期間について、年率14.6%という高い利率で計算されます。
IT外注の支払いが遅れる原因はさまざまですが、「検収が長引いて支払いが後ろ倒しになった」というケースは典型的です。検収を理由に支払いを引き延ばしても、受領日から60日を超えれば遅延利息の対象になり得ます。検収プロセスと支払いスケジュールを一体で管理することが重要です。
価格改定の協議に応じる(一方的な単価決定の禁止)
取適法では、受注者からの価格協議の求めに応じずに、発注者が一方的に代金を決定することが禁止されています(政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」)。
IT外注では、保守・運用契約の更新時や、人件費の上昇局面で、受注者から単価の見直しを求められることがあります。こうした申し出に対し、協議のテーブルにつかないまま従来単価を据え置く、あるいは発注者の都合だけで単価を切り下げる、といった対応は取適法に抵触するおそれがあります。
価格を据え置く場合でも、受注者からの協議の求めには応じ、その協議の経緯を記録に残しておくことが、適切な対応につながります。
なお、取適法は上記の義務に加えて、受領拒否や代金の減額、買いたたき、不当なやり直し要求といった禁止行為も定めています。IT外注で起こりやすいのは、「検収段階での不当な受領拒否」「仕様変更に伴う追加費用を支払わずにやり直しを求める」「発注後に一方的に代金を減額する」といった行為です。これらは次のセクションで、発注フローの工程に沿って具体的に見ていきます。
現行の発注フローの何を変えるべきか(Before/After)

ここまでで、IT外注が取適法の対象になり得ること、そして発注者が守るべき義務を確認しました。このセクションでは、検索者の核心的な疑問である「では、自社の発注フローのどこを変えればよいのか」に、工程ごとに答えていきます。
IT外注の典型的な発注フローは「見積依頼 → 発注 → 開発・作業 → 検収 → 支払」という流れをたどります。この各工程について、取適法を踏まえて見直すべきポイントを、Before(よくある現状)とAfter(求められる対応)の対比で整理します。
見積・発注段階の見直し
工程 | Before(よくある現状) | After(求められる対応) |
|---|---|---|
発注方法 | 口頭やチャットで「この機能を追加して」と依頼し、正式な発注書を出していない | 発注内容を記載した書面、または電磁的方法(メール・システム上のデータ)で交付する |
発注内容 | 仕様・納期・代金が曖昧なまま着手している | 業務内容(仕様)・納期・代金・支払期日・検査方法を明示する |
仕様未確定時 | 仕様が固まらないまま発注し、後から追加要求を口頭で重ねる | 現時点で定められる事項を明示し、未確定事項は確定後すみやかに補充の書面を交付する |
IT外注で最も多い問題が、この見積・発注段階での「発注書の不交付」です。アジャイル開発や保守契約では、追加開発の依頼が日常的にチャットで飛び交うため、1件ごとの正式な発注書が省略されがちです。しかし、取適法のもとでは発注内容の明示が義務である以上、発注フォーマットを整備し、追加開発も含めて発注内容を記録に残す運用へ切り替える必要があります。
発注書に記載すべき項目や、書面交付の実務については、発注書・注文書とは?の記事も参考にしてください。
検収段階の見直し
工程 | Before(よくある現状) | After(求められる対応) |
|---|---|---|
検収基準 | 検収の基準が事前に共有されておらず、発注者の感覚で合否を判断している | 検収の方法・基準を発注時に明示し、その基準に沿って検査する |
受領の扱い | 自社の都合(予算の都合・社内事情など)で受領を先延ばしにする | 受注者に責任がないのに受領を拒む「受領拒否」は禁止されている |
やり直し要求 | 当初の仕様に含まれない変更を、追加費用なしでやり直させる | 当初の発注内容に対する不当なやり直し要求は禁止。仕様変更は追加発注として扱う |
検収段階は、IT外注のトラブルが集中しやすい工程です。検収基準が曖昧なまま「これでは受け取れない」と差し戻すと、不当な受領拒否ややり直し要求と評価されるおそれがあります。検収の方法と合格基準を発注時に明示しておくことが、後のトラブルとリスクの両方を減らします。
検収をめぐる対応の手順については、検収を拒否する手順5ステップの記事で詳しく解説しています。
支払段階の見直し
工程 | Before(よくある現状) | After(求められる対応) |
|---|---|---|
支払サイト | 「月末締め翌々月末払い」など、受領日から60日を超える設定になっている | 受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払う |
支払手段 | 手形での支払いを行っている | 手形での支払いは禁止されている |
代金の取り扱い | 発注後に一方的に代金を減額する、振込手数料を無断で差し引く | 受注者の責任がないのに代金を減額することは禁止されている |
支払段階で特に見落とされやすいのが、支払サイトです。慣例で続けてきた支払サイクルが、受領日起点で60日を超えていないかを必ず確認してください。また、取適法では手形での支払いが禁止された点も、改正の重要な変更点です(経済産業省 中小企業庁 ミラサポplus)。IT外注で手形払いを行っている場合は、振込など別の手段への切り替えが必要です。
価格交渉・契約更新の見直し
工程 | Before(よくある現状) | After(求められる対応) |
|---|---|---|
単価の決定 | 保守契約の更新時などに、発注者の都合で単価を据え置く・切り下げる | 受注者からの価格協議の求めに応じ、協議のうえで決定する |
協議の記録 | 価格に関するやり取りを記録に残していない | 協議の経緯(申し出・回答・合意内容)を記録に残す |
価格転嫁 | コスト上昇分の価格転嫁の相談に応じない | 人件費・原材料費の上昇を踏まえた協議に誠実に対応する |
保守・運用契約は長期にわたって更新されることが多く、単価が見直されないまま続いているケースが珍しくありません。受注者から単価見直しの相談があった際に、協議せず一方的に従来単価を維持することはリスクになります。価格を据え置く判断をする場合でも、協議の場を設け、その経緯を記録しておくことが大切です。
フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド

この資料でわかること
業務委託でエンジニアに発注する企業担当者・法務担当者が、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」への対応を含め、業務委託契約に関する法律・契約実務を体系的に把握し、自社のコンプライアンス体制を整備できる状態にする。
こんな方におすすめです
- フリーランス新法への対応状況を社内で点検したい企業担当者
- 業務委託契約書・NDAの記載事項を確認したい法務担当者
- 偽装請負リスクを把握し指揮命令の境界線を整理したい開発マネージャー
入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。
発注担当者向け|取適法対応セルフチェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、自社のIT外注の発注実務を点検するためのセルフチェックリストを用意しました。発注書や契約書、支払いの記録を手元に置きながら、1項目ずつ確認してみてください。
チェックがつかない項目(自信を持って「はい」と言えない項目)が、優先的に対応すべき箇所です。
発注・契約に関するチェック項目
- IT外注の発注時に、発注内容を記載した書面または電磁的方法(メール・システムデータ)を毎回交付している
- 発注書に「業務内容(仕様)」「納期」「代金の額」「支払期日」「検査方法」を明示している
- 追加開発・仕様変更の依頼も、口頭やチャットだけで済ませず発注内容を記録に残している
- 仕様が未確定のまま発注する場合、確定後すみやかに補充の書面を交付する運用になっている
- 検収(検査)の方法と合格基準を、発注の時点で受注者に明示している
- 自社の都合で受領を先延ばしにしたり、当初仕様に含まれないやり直しを無償で求めたりしていない
支払・記録に関するチェック項目
- 代金の支払期日を、納品物の受領日から起算して60日以内に設定している
- 支払サイト(締め・支払のサイクル)が、受領日起点で60日を超えていないことを確認した
- 手形での支払いを行っていない
- 発注後に一方的な代金の減額や、無断での振込手数料の差し引きをしていない
- 取引の記録(発注内容・受領日・検査結果・支払日・支払額など)を作成し、2年間保存する運用になっている
- 受注者から価格協議の求めがあった場合に応じ、協議の経緯を記録に残している
チェック結果の活かし方
チェックが終わったら、結果を「対応の優先順位」に変換し、上司に報告できる形に整理しましょう。
まず、チェックがつかなかった項目を、次の3つの優先度に振り分けます。
優先度 | 振り分けの目安 | 該当しやすい項目 |
|---|---|---|
高(早期に着手) | 違反時に罰則の対象となる、または取引先との金銭トラブルに直結する項目 | 書面・記録の不備(書面交付・記録の2年間保存)、支払サイトが60日超、手形払い |
中(計画的に対応) | 運用ルールやフォーマットの整備で改善できる項目 | 発注書フォーマットの整備、追加開発の発注記録、検収基準の事前明示 |
低(運用に落とし込む) | 仕組みは整っているが、徹底・周知が必要な項目 | 価格協議の記録、補充書面の運用徹底 |
優先順位を判断する軸はシンプルです。「違反すると罰則やペナルティの対象になるか」「取引先との直接的なトラブル(未払い・代金トラブル)につながるか」を満たす項目から着手します。書類保存義務のように刑事罰(50万円以下の罰金)が定められている項目や、支払サイト・手形払いのように金銭に直結する項目は、優先度「高」に位置づけるのが妥当です。
次に、これを上司への報告に落とし込みます。報告の際は、現状・リスク・対応案・期限の4点をセットで伝えると、意思決定がスムーズに進みます。以下は報告フォーマットの一例です。
【件名】取適法(2026年1月施行)への自社IT外注の対応状況と是正案
1. 結論
当社のIT外注は取適法の対象に該当(または該当の可能性あり)。
セルフチェックの結果、是正が必要な項目は ◯ 件。うち優先度「高」は ◯ 件。
2. 対象判定の根拠
・委託内容:システム開発/保守・運用 等
・対象基準:資本金(◯◯円)/従業員数(◯◯人)→ 委託事業者に該当
3. 是正が必要な項目(優先度順)
優先度「高」
・例)支払サイトが受領日起点で◯日となっており60日を超過 → 振込サイクルの短縮が必要
・例)取引記録の保存ルールが未整備 → 記録様式の作成・保存ルール策定が必要
優先度「中」
・例)追加開発の発注書フォーマットが未整備 → ◯月までに整備
優先度「低」
・例)価格協議の記録運用 → 次回契約更新時から適用
4. 対応スケジュール案
・優先度「高」:◯月◯日までに是正
・優先度「中」:◯月までにフォーマット整備・運用開始
・優先度「低」:次回契約更新タイミングで反映
5. 必要なリソース・判断事項
・支払サイト変更に伴う資金繰りへの影響確認(経理部門と要相談)
・契約書ひな形の見直し(法務/顧問専門家への確認が必要か)
このフォーマットの狙いは、上司が「何を、いつまでに、誰がやるのか」を一目で把握でき、その場で判断・指示を出せる状態にすることです。チェックリストの結果をそのまま並べるのではなく、優先度とスケジュールに整理し直すことで、報告が「課題の共有」から「意思決定の依頼」に変わります。
なお、支払サイトの変更や契約書ひな形の見直しは、経理部門や法務部門、場合によっては顧問の専門家との調整が必要になります。セルフチェックは「自社の現状を正確に把握し、関係部署を巻き込むための出発点」と位置づけ、判断に迷う項目は無理に自己判断せず、専門家への確認を選択肢に含めてください。
取適法と下請法の違い|IT外注担当者が混乱しやすいポイント
取適法について情報収集を進めると、「下請法とは別の新しい法律なのか」「用語が変わったが古い言葉はもう使わないのか」といった疑問が出てきます。誤った自己判断を防ぐため、つまずきやすいポイントを整理しておきます。
下請法と取適法の関係
取適法は、まったく新しく作られた法律ではありません。これまでの下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正し、名称を「中小受託取引適正化法」に変更したものです。
つまり「下請法が廃止されて取適法ができた」というより、「下請法が改正されて取適法という名前になった」と理解するのが正確です。下請法の時代から続く基本的な枠組み(発注者の義務、禁止行為など)は引き継がれており、そこに改正による変更点(用語の変更、従業員数基準の追加、手形払いの禁止、価格協議に関するルールなど)が加わった、という構造です。
用語・適用範囲の変更点
IT外注担当者が特に混乱しやすい変更点を、比較表で整理します。
項目 | 下請法(〜2025年12月) | 取適法(2026年1月〜) |
|---|---|---|
法律の名称 | 下請代金支払遅延等防止法(下請法) | 中小受託取引適正化法(取適法) |
発注者の呼称 | 親事業者 | 委託事業者 |
受注者の呼称 | 下請事業者 | 中小受託事業者 |
対象判定の基準 | 資本金の額 | 資本金の額、または従業員数(いずれか) |
支払手段 | 手形払いが一定の制約のもとで可能 | 手形払いは禁止 |
価格決定 | 買いたたきの禁止 | 買いたたきの禁止に加え、協議に応じない一方的な代金決定を禁止 |
ここで特に注意したいのが、対象判定の基準です。「資本金が小さいから対象外」という従来の判断は、取適法では通用しないことがあります。従業員数基準が追加されたことで、資本金が基準以下でも従業員数が基準を超えていれば対象になるからです。
「数年前に確認したら対象外だった」という記憶を根拠に判断せず、資本金と従業員数の両方で改めて対象判定を行ってください。検収や取引拒否をめぐる実務上の注意点は、検収を拒否する手順5ステップも併せて参考になります。
まとめ|IT外注の発注者が今すぐ着手すべきこと

最後に、取適法に対応するためにIT外注の発注者が着手すべきことを、対応ステップとして整理します。
- 対象判定:自社のIT外注(システム開発・保守・運用・データ処理・デザイン制作など)が、情報成果物作成委託・役務提供委託に当たるかを確認する。そのうえで、資本金と従業員数の両方の基準で、自社が委託事業者に該当するかを判定する
- 5つの義務の確認:発注内容の明示、取引記録の作成・保存、支払期日の設定(受領日から60日以内)、遅延利息の支払、価格協議への対応という義務を、自社が満たせているか確認する
- 発注フローの見直し:見積・発注、検収、支払、価格交渉の各工程について、取適法を踏まえた見直しを行う
- セルフチェック:この記事のチェックリストで現状を点検し、未対応項目を優先度順に整理して上司に報告する
取適法に違反した場合、公正取引委員会や中小企業庁から指導・勧告を受けることがあり、書面交付義務や書類保存義務の違反については50万円以下の罰金という刑事罰も定められています(TCNB「取適法の4つの義務とは?」)。法令を守ること自体が目的であると同時に、発注実務を整えることは取引先との信頼関係を保つことにもつながります。
取適法はすでに施行されています。「いつか対応する」ではなく、まずは対象判定とセルフチェックから着手し、自社のIT外注フローを取適法に適合した形へ整えていきましょう。発注書の整備については発注書・注文書とは?の記事も、対応の出発点として役立つはずです。
画像指示
- アイキャッチ推奨クエリ: "business contract review office desk laptop"
見出しテキスト | クエリ |
|---|---|
IT外注・システム開発委託は取適法の対象になるのか | "software developer team meeting discussion" |
現行の発注フローの何を変えるべきか(Before/After) | "business process workflow planning whiteboard" |
発注担当者向け|取適法対応セルフチェックリスト | "checklist clipboard business audit" |
まとめ|IT外注の発注者が今すぐ着手すべきこと | "business team report presentation meeting" |
フリーランス新法対応 業務委託発注の法律・契約リスク点検ガイド

この資料でわかること
業務委託でエンジニアに発注する企業担当者・法務担当者が、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」への対応を含め、業務委託契約に関する法律・契約実務を体系的に把握し、自社のコンプライアンス体制を整備できる状態にする。
こんな方におすすめです
- フリーランス新法への対応状況を社内で点検したい企業担当者
- 業務委託契約書・NDAの記載事項を確認したい法務担当者
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入力いただいたメールアドレスにPDFをお送りします。



